軽トラ和尚の旅日記

軽トラの荷台に坐禅堂を積んで走る禅僧の修行

軽トラ和尚の旅日記

私が産経新聞を購読するたった一つの理由

 他の新聞にも同じことが言えそうであるが、どの新聞にもキラリと光る記事がある。産経新聞を取っているというと、ちょっと怪訝な顔をされることがあるが、自分では特に右寄りとも思っていないし、ましてや右翼ではない。ど真ん中、直球であるとしか思っていいないが、いくつも新聞を取るほど余裕もないので、他の新聞には悪いが産経新聞を取っている。ほとんど一部しか読まない。もったいな限りであるが、どの新聞にもない、一面に一般の市井の話がいつも載っているのは、知る限り産経新聞(大阪版)だけである。いわく「朝の詩(うた)」と「夜明けのエッセー」である。

 とりわけ「夜明けのエッセー」には、いつも心ほのぼのと、また胸熱くしていただいている。市井の方の何気ない文章であるが、いささか年老いた身にとって、この一面の右下隅は「こころのベンチ」だ。このベンチがない朝は、どことなく物足りない。

 今日は、その一部、本年5月13日付けの「夜明けのエッセー」を丸ごと紹介したい。掟破りかも知れないが、新聞記事を全部引用するわけではないので、特にお赦しをいただきたい。このようなショートエッセーが毎日わが寺に(我が家)に届くのである。

 

愛しくて

     田中直子さん(65)愛媛県伊予市(産経新聞2017.5.13より引用)

 あなたが逝ってから1年がたちました。一周忌も無事終えましたよ。空から見てくれていますか?

 最近、あなたのことが愛しくてたまりません。生きていた頃より愛しさが増した気がします。昨年2月、入院中のあなたへ「笑う鬼の絵手紙」を出して、また一緒に笑える日々がくることを願ったけれど、1ヶ月後に私の元から去ってしまったあなた。

 私の中でしばらくの間時計は止まったままでした。何もする気がしなくて笑うことも忘れて鬱状態になってしまいました。でもそんなことをしていたらあなたが心配するはず、私が元気で明るく過ごすことを喜んでくれると思い、気を取り直しました。

 そうそう、ピアノを再開したのですよ。下手ですがあなたのことを想って「君といつまでも」を弾いています。あなたの仏壇の横で弾きながら涙が出てきます。あなたといつまでも一緒にいたかったとつくづく思います。

 5歳年下のあなたと知り合って40年、結婚して33年、長いようであっという間のように思えます。病気と闘いながらの20年、よく頑張ったね。痛いとかしんどいとか、ひと言も愚痴をこぼすことこともなかったあなたを私は尊敬しています。

 病弱で結婚をあきらめていた私があなたと結婚できたこと、本当に幸せでした。ありがとう。これからもあなたと過ごした思い出のときを。幸せを背負って生きて行きます。

 私が行くまで待っていてください。ちょっと照れたような笑顔を見せてくださいね。やはりあなたが一番すきです。

 

 このエッセーには正直泣かされました。いや、毎日のように胸を熱くさせるエッセーの数々に、産経が偏っているだとか、右寄りだとか、手厳しいとかという世間の風は、この「夜明けのエッセー」を読んだら評価が一変すると思います。夫婦っていいなと素直に思いましたし、家族ってありがたいな、友達って得難いなとか、そういう優しい気持ちに溢れています。

 私は産経新聞と何の関わりもありませんが、一円ももらっていませんが(笑)、感動というか、ほのぼのというか、何ともいえない暖かい、胸を打つ感触に毎朝のように触れています。サイレントマジョリティというものは、そういう市井の何気ない毎日にあるのではないだろうか。だからこそ、その小さな世界の片隅の小さくて大きな幸せを守らなければならないという気持ちを強くいたします。

 このエッセイで最も感動したのは「病弱で結婚をあきらめていた私があなたと結婚できたこと、本当に幸せでした。」というくだりです。あろうことか涙腺が崩壊してしまいました。琴線に触れてしまう一言でした。他人とは思えないほど、同じような感慨にとらわれた自分がいました。私のケースとは全く違いますが、全く同じ気持ちです。

 人は、縁あって結ばれ、そして別れていきます。このあたり前のことが、今日はなぜか愛おしく、つよくつよく胸を打ちます。何気ない、ぜんぜん構えていない文章ゆえに、なおさら心を揺さぶります。

 今日はこれ以上何も申し上げられません。ただただ、人びとの優しさを熱く熱く感じております。言いたい放題のブログも、もはや方無しであります。

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